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Z世代の「パーパス」重視が変える組織エンゲージメント:企業文化への影響と人事の役割

Tags: Z世代, パーパス, エンゲージメント, 組織文化, 人事戦略, DE&I, 採用, 人材育成

はじめに:Z世代の価値観変化と組織が直面する課題

現代の職場において、多様な世代が共に働く中で生じる価値観の差異への対応は、人事部門にとって重要な課題となっています。特に、次世代の労働力の中核を担いつつあるZ世代は、これまでの世代とは異なる独自の価値観を持っており、これが組織文化や従業員のエンゲージメントに大きな影響を与え始めています。人事部マネージャーの皆様の中には、Z世代社員のエンゲージメント維持や、既存の人事制度・文化が彼らの期待に応えられているかについて、課題を感じている方もいらっしゃるかもしれません。

Z世代の価値観の多様化は多岐にわたりますが、その中でも顕著な傾向の一つに「パーパス(存在意義)」への重視があります。企業が何のために存在し、どのような社会的な価値を提供しているのか、あるいは提供しようとしているのかという点に、彼らは強い関心を示します。本記事では、このZ世代の「パーパス」重視が組織に与える具体的な影響を分析し、それに対する人事部門が取るべき対応策について、具体的な施策や導入のポイントを交えて解説します。

Z世代が「パーパス」を重視する背景とその特徴

Z世代は、幼少期からインターネットやSNSに触れ、多様な情報や価値観に日常的に接してきました。地球規模の課題や社会問題に対する意識が高く、企業の経済活動だけでなく、倫理観や社会貢献といった側面に敏感です。彼らにとって、働くことは単に収入を得る手段であるだけでなく、自身の価値観や社会に対する貢献意識と一致する活動であるかを重視する傾向があります。

ある調査では、Z世代の過半数が、就職先を選ぶ際に企業の社会貢献活動や倫理観を重視すると回答しており、これは上の世代と比較しても高い割合を示しています。また、働く上でのモチベーションとして、自身の業務が社会や他者にどのような影響を与えるかを気にする傾向も見られます。これは、単に与えられた業務をこなすだけでなく、その業務の意義や目的、そしてそれが組織全体のパーパスにどう繋がるのかを理解したいという欲求の表れです。

「パーパス」重視が職場に与える具体的な影響

Z世代の「パーパス」重視は、職場の様々な側面に具体的な影響を与えます。

  1. 採用活動への影響: 企業のパーパスや社会貢献活動が明確でない、あるいは従業員の価値観と乖離していると感じる場合、優秀なZ世代候補者の獲得が難しくなる可能性があります。企業のウェブサイトや採用説明会、SNSでの発信内容が、彼らの就職先選びにおいて重要な判断材料となります。
  2. 従業員エンゲージメントと定着率: 自身の業務や所属する部署、ひいては会社全体のパーパスが不明確であったり、共感できなかったりする場合、エンゲージメントの低下を招きやすくなります。これは、早期離職のリスクを高める要因ともなり得ます。一方で、企業のパーパスに共感し、自身の業務がそれに貢献していると感じられる場合、高いモチベーションとエンゲージメントを持って働くことが期待できます。
  3. 職場での行動・発言: 社会的な公正さや倫理観に対する意識が高いため、職場における不公平な慣行や、企業の社会倫理に反すると思われる行動に対して、積極的に疑問を呈したり、改善を求めたりする傾向があります。これは、組織の透明性や説明責任に対する要求が高まっていることを示しています。
  4. 組織文化: 表面的な制度だけでなく、組織全体としてどのような価値観を大切にし、何を目指しているのかという、より本質的な「文化」の部分に注目します。形式的なDE&I推進だけでなく、それが企業のパーパスとどう繋がり、実際に職場に根付いているのかを肌で感じ取りたいと考えています。

人事部門が取るべき対応策:パーパス起点の組織づくり

Z世代の「パーパス」重視に対応し、彼らのエンゲージメントを高めるためには、組織全体としてパーパスを明確にし、それを経営戦略や人事戦略と結びつける必要があります。人事部門は、このプロセスにおいて重要な役割を担います。

  1. 企業のパーパスの明確化と浸透:

    • 施策のステップ:
      • 経営層と連携し、企業の存在意義や目指す社会的な価値を改めて定義・言語化します。
      • 定義されたパーパスを社内外に分かりやすく発信する戦略を立案・実行します(ウェブサイト、社内報、SNS、説明会など)。
      • 全従業員がパーパスを理解し、自身の業務との繋がりを感じられるよう、研修やワークショップを実施します。
    • 導入のポイント: 一方的な伝達ではなく、対話を通じて従業員の共感を得ることが重要です。経営層自らがパーパスを語り、体現する姿勢を示すことも不可欠です。
    • 期待される効果: 企業のブランドイメージ向上、採用競争力の強化、従業員の会社への誇りや一体感の醸成。
  2. 採用活動におけるパーパスの発信強化:

    • 施策のステップ:
      • 採用ページや求人情報に、企業のパーパス、社会貢献活動、倫理的な取り組みについて具体的に記述します。
      • 採用説明会や面接において、単なる事業内容の説明に留まらず、企業のパーパス実現に向けた取り組みや、候補者の価値観がどのように活かせるかを伝えます。
      • 社員の体験談やインタビューを通じて、働くことの意義や社会への貢献実感を伝えるコンテンツを充実させます。
    • 導入のポイント: 表面的なアピールだけでなく、具体的な活動内容やエピソードを交えることで、信頼性を高めます。
    • 期待される効果: パーパスに共感する候補者の応募促進、入社後のミスマッチ防止。
  3. 従業員エンゲージメント向上のためのパーパス連動施策:

    • 施策のステップ:
      • 従業員が企業の社会貢献活動にボランティアとして参加したり、アイデアを提案したりできる機会を設けます。
      • 従業員のCSR活動やプロボノ活動を支援する制度を導入します。
      • 社員のアイデアから新しい社会貢献プロジェクトが生まれる仕組みを作ります。
      • 評価制度において、個人の目標設定と企業のパーパスを紐づける要素を導入することも検討します。
    • 導入のポイント: 参加を強制するのではなく、自発的な貢献意欲を引き出すような仕組み作りが重要です。
    • 期待される効果: 従業員の仕事へのやりがい向上、会社への愛着や貢献意欲の強化、エンゲージメントサーベイでの改善。
  4. 透明性の高い組織文化の醸成:

    • 施策のステップ:
      • 経営状況や重要な意思決定プロセスについて、可能な範囲で透明性の高い情報共有を行います。
      • 従業員が意見や懸念を率直に表明できるチャネル(例:匿名での提案制度、定期的なタウンホールミーティング)を整備します。
      • 企業倫理に関する研修や啓発活動を継続的に実施します。
    • 導入のポイント: 一方的な情報公開だけでなく、従業員の意見や質問に対して誠実に向き合う姿勢が信頼関係を築きます。
    • 期待される効果: 従業員の会社への信頼度向上、心理的安全性の確保、コンプライアンス意識の向上。

事例の示唆: 例えば、あるIT企業では、自社の技術を活用した社会課題解決プロジェクトを複数立ち上げ、従業員が関わる機会を増やしました。結果として、Z世代社員の離職率が低下し、エンゲージメントサーベイの「会社への貢献意欲」に関する項目で顕著なスコア上昇が見られました。また、ある製造業では、サステナビリティへの取り組みを強化し、その進捗を定期的に全従業員に共有することで、社員の会社に対する誇りや一体感が高まったという報告があります。これらの事例は、パーパスに基づいた具体的な行動や情報共有が、従業員のエンゲージメントに直接的に好影響を与える可能性を示唆しています。

結論:パーパス経営は多様な人材が活躍する組織の基盤となる

Z世代の「パーパス」重視は、今後の企業経営において無視できない重要なトレンドです。これは単に採用戦略やエンゲージメント施策の一部として捉えるのではなく、企業の存在意義そのものを見つめ直し、それを経営の根幹に据える「パーパス経営」への転換を促す契機と捉えるべきです。

人事部門は、このパーパス経営を組織文化に根付かせ、多様な価値観を持つ従業員、特にZ世代のエンゲージメントを高めるための中心的な役割を担います。企業のパーパスを明確に定義し、それを採用、人材育成、評価、組織開発といったあらゆる人事機能に紐づけることで、企業は持続的な成長を実現し、すべての世代が自身の価値観を大切にしながら貢献できるインクルーシブな職場環境を構築できるでしょう。経営層への説明責任を果たす上でも、パーパスに基づく人事戦略は、単なるコストではなく、将来への投資としての有効性を強く主張できる根拠となります。多様な価値観への対応は、企業の競争優位性を確立するための重要な一歩なのです。