Z世代が求める「働く意味」の変化:エンゲージメント向上と離職防止のための人事戦略
はじめに:Z世代が問い直す「働く意味」とは
現代の職場において、特にZ世代と呼ばれる若い世代の価値観が多様化し、従来の働き方や企業文化に対する認識に変化が見られます。特に顕著なのが、「働くことの意味」に対する彼らの問いかけです。単に経済的な報酬やキャリアアップだけではなく、社会への貢献、個人の倫理観との一致、自己成長の実感など、より内発的で複合的な「意味」を仕事に求める傾向が強まっています。
この「働く意味」の変化は、組織のエンゲージメントレベルや人材の定着率に直接的な影響を及ぼすため、人事担当者にとって喫緊の課題となっています。既存の人事制度やマネジメントスタイルが、多様な「働く意味」に対応しきれていない場合、従業員のモチベーション低下や早期離職に繋がるリスクが高まります。本稿では、Z世代が求める「働く意味」の具体的な特徴を分析し、企業がエンゲージメントを向上させ、優秀な人材の流出を防ぐために取るべき人事戦略と具体的な対応策について論じます。
Z世代が仕事に求める「働く意味」の具体的な特徴
Z世代は、デジタルネイティブとして多様な情報に触れ、社会課題への意識が高いという特徴を持ちます。こうした背景から、彼らが仕事に求める「意味」は、以下のような要素を含んでいます。
- 社会貢献性・倫理観との一致: 自分の仕事が社会にどのような影響を与えるのか、企業の活動が倫理的に問題ないかといった点を重視します。単なる営利目的だけでなく、企業のパーパスやCSR活動に共感できるかを仕事選びの基準とする場合があります。
- 個人の価値観・アイデンティティとの整合性: 仕事を通じて自分らしさを表現したい、個人の信念や価値観と矛盾なく働きたいという欲求が強い傾向があります。これは、個人の「あり方」と「働き方」を切り離さずに捉えようとする姿勢の表れです。
- 自己成長とスキルの獲得: キャリアアップだけでなく、新しいスキルを習得すること、様々な経験を通じて人間的に成長すること自体に価値を見出します。自身の市場価値を高める機会を求めます。
- フラットでオープンな人間関係: 組織内のヒエラルキーよりも、対等で心理的安全性が確保された人間関係の中で働きたいと願います。自身の意見が尊重され、対話を通じて仕事の意味を共有できる環境を好みます。
- 仕事内容そのものへの関心: 報酬やポジションだけでなく、仕事内容そのものが面白いか、興味を持てるかといった、内発的な動機付けを重視します。
例えば、ある調査(架空)では、「仕事選びで重視する点」として、Z世代の回答者の45%が「社会への貢献度や企業の倫理観」を挙げ、30%が「個人の価値観と仕事の一致」を挙げました。これは、従来の世代と比較して、報酬や安定性以外の要素がより強く意識されていることを示唆しています。
「働く意味」の変化が職場に与える具体的な影響
Z世代の「働く意味」に対する意識の変化は、職場に様々な影響をもたらしています。
- エンゲージメントの個人差と低下リスク: 企業のパーパスや個々の業務が持つ「意味」が不明確であったり、個人の価値観と乖離していたりする場合、エンゲージメントが低下しやすくなります。単一的な評価基準やキャリアパスでは、多様な「働く意味」を持つ従業員のモチベーションを維持することが難しくなります。
- 早期離職の増加: 「働く意味」が見いだせない、あるいは企業の文化や方針が自身の価値観と合わないと感じた場合、比較的早期に離職を選択する傾向が見られます。これは、終身雇用よりも個人のキャリアやウェルビーイングを優先する価値観の表れです。
- 従来のマネジメントスタイルの限界: 権威的な指示命令型のマネジメントでは、Z世代の「働く意味」への問いに応えることができません。「なぜこの仕事をするのか」「この仕事がどう社会に貢献するのか」といった問いに対し、明確かつ納得のいく説明や対話が求められます。
- 組織文化の変革の必要性: 多様な「働く意味」を内包し、それぞれを尊重するインクルーシブな組織文化が求められます。そうでなければ、特定の価値観を持つ層が疎外感を感じ、組織全体の一体感が損なわれる可能性があります。
エンゲージメント向上と離職防止に向けた人事戦略と対応策
Z世代の「働く意味」の変化に対応し、エンゲージメントを向上させ、離職を防止するためには、人事部主導による戦略的なアプローチが必要です。
1. 企業のパーパス・ビジョンの再定義と浸透
自社が何を目指し、社会にどのような価値を提供しているのかを明確に定義し、従業員一人ひとりの業務がそれにどう繋がるかを丁寧に伝達することが重要です。単なるスローガンに終わらせず、経営層自らが語り、対話の機会を設けるなど、全社的に浸透させる取り組みが必要です。
- 具体的な施策例:
- 経営層やリーダーによるパーパス説明会の実施
- 社内報やイントラネットでのパーパス実現に向けた取り組みの具体例共有
- 部署ごと、チームごとの業務とパーパスの繋がりを話し合うワークショップ
2. 個人の「働く意味」と組織の目的のすり合わせ
従業員が自身の「働く意味」を言語化し、それが組織の目的や自身の業務とどのように関連しているのかを理解できるよう支援します。
- 具体的な施策例:
- 1on1ミーティングでの「働く意味」「キャリア観」に関する対話促進
- キャリアカウンセリングやメンター制度の導入
- 従業員が自身の価値観を共有する機会(例:ライトニングトーク、社内ブログ)
3. 多様な貢献の形を認め、キャリアパスを柔軟化
従来の昇進・昇格一辺倒ではない、多様な「貢献」の形を評価し、個人の成長やスキルアップ、社会貢献といった側面もキャリアパスに組み込むことを検討します。
- 具体的な施策例:
- 職務等級制度の見直し(プロフェッショナルコース、専門職コースなどの設置)
- 社内兼業、プロジェクト単位での参加、社内公募制度の拡充
- 社会貢献活動への参加を推奨し、人事評価に反映させる仕組み(評価の一部にする、表彰するなど)
4. 評価制度への「意味」の反映
単なる成果だけでなく、成果を出すまでのプロセスや、チーム・組織への貢献、社会性、個人の成長度といった、Z世代が重視する「働く意味」に関連する要素を評価項目に加えることを検討します。評価基準の透明性を高めることも不可欠です。
- 具体的な施策例:
- コンピテンシー評価項目への「倫理観」「社会貢献意識」「多様性への配慮」などの追加検討
- 360度評価における「チームへの貢献」「企業文化への寄与」といった項目の強化
- MBO(目標管理制度)において、個人的な成長目標や社会貢献に関する目標設定を推奨・評価
5. マネジメント層の意識改革とスキルアップ
マネージャーがZ世代の価値観を理解し、一方的な指示ではなく、対話を通じて「働く意味」を引き出し、エンゲージメントを高めるスキル(コーチング、ファシリテーションなど)を習得するための研修を実施します。
- 具体的な施策例:
- Z世代の価値観やコミュニケーションスタイルに関する研修
- 1on1の効果的な実施方法、フィードバックの方法に関する研修
- 心理的安全性の高いチームを作るためのリーダーシップ研修
6. インクルーシブな組織文化の醸成
多様な価値観を持つ従業員が安心して自身の意見や「働く意味」を表明できる、心理的安全性の高いオープンなコミュニケーションを奨励する文化を醸成します。D&I推進は、「働く意味」の多様性を受け入れ、活かす土壌作りとして不可欠です。
- 具体的な施策例:
- 従業員間の相互理解を深めるダイバーシティ研修やイベント
- ハラスメント防止、アンコンシャス・バイアスに関する教育
- 従業員からの意見や提案を吸い上げる仕組み(目安箱、タウンホールミーティングなど)
これらの施策は、単独で行うのではなく、相互に関連させながら、組織全体の変革として取り組むことが重要です。例えば、あるIT企業では、全社員対象のパーパス浸透ワークショップと並行して、マネージャー向けに1on1スキルの研修を強化しました。その結果、従業員エンゲージメントサーベイで「自身の仕事の意義を理解している」と回答した従業員の割合が15%増加し、特に若手層の離職率が抑制されたという事例があります(架空事例)。
結論:多様な「働く意味」への対応が組織の未来を拓く
Z世代が仕事に求める「働く意味」の多様化は、単なる一過性のトレンドではなく、働くことそのものに対する価値観の構造的変化と言えます。この変化に人事戦略として適切に対応できるかどうかが、今後の企業の競争力、人材獲得力、そして持続可能な組織運営の鍵となります。
人事担当者としては、まず自社のZ世代従業員が具体的にどのような「働く意味」を求めているのかを理解するための対話や調査から始めることが推奨されます。その上で、企業のパーパスやビジョンを明確にし、個人の「働く意味」と組織の目的をいかに効果的に結びつけるかを戦略的に検討する必要があります。これは、経営層や各部署のリーダーとの連携なくしては実現できません。
多様な「働く意味」を組織の力に変えるためには、柔軟な制度設計、マネジメントの質向上、そして何よりも多様な価値観を尊重するインクルーシブな組織文化の醸成が不可欠です。これらの取り組みを通じて、すべての従業員が自身の「働く意味」を見出し、組織への貢献を通じて自己実現できる職場環境を構築していくことが、これからの人事部門に求められる重要な役割となります。