Z世代の承認・貢献意欲を活かす:組織エンゲージメントを高める人事のアプローチ
Z世代が求める「承認」と「貢献」:組織エンゲージメント向上の鍵
近年の職場環境において、特に若い世代であるZ世代の価値観やモチベーションの源泉は多様化しています。彼らは従来の年功序列や昇進といったキャリアパスだけでなく、仕事を通じて得られる「承認」や「貢献」の実感を重視する傾向にあります。この変化は、組織のエンゲージメントや定着率に大きな影響を与えており、人事部門にとっては、Z世代のこのような欲求をいかに理解し、組織文化や人事制度に反映させていくかが重要な課題となっています。
従来の評価制度やフィードバックシステムだけでは、Z世代が求める承認や貢献の形を十分に捉えきれない場合があります。彼らは、成果だけでなくプロセスや努力に対する承認、上司だけでなく同僚からの承認、そして単なる収益貢献だけでなく社会やチームへの貢献といった多角的な視点での承認・貢献実感を求めているからです。このようなニーズに応えられない職場では、Z世代のエンゲージメントが低下し、早期離職につながるリスクも高まります。
本稿では、Z世代の承認・貢献意欲の具体的な特徴を分析し、それが職場に与える影響を考察します。さらに、企業がZ世代のモチベーションを高め、組織全体のエンゲージメントを向上させるために人事として取り組むべき具体的な施策について解説します。
Z世代が求める承認・貢献の具体的な特徴
Z世代はデジタルネイティブであり、SNSなどを通じて日頃から他者からのリアクション(いいね、コメントなど)に触れる機会が多い環境で育ちました。この背景から、彼らは自身の行動や成果に対する即時性のある承認を求める傾向があります。しかし、これは単なる承認欲求の強さを示すだけでなく、自身の存在や取り組みが他者に認められ、価値を生み出していることへの確認でもあります。
また、「貢献」に対する意識も多様です。単に会社の業績に貢献するだけでなく、自分が所属するチームに良い影響を与えること、同僚の助けになること、顧客に喜ばれること、さらには社会課題の解決に繋がることなど、貢献の対象は多岐にわたります。彼らは自身の「パーパス(存在意義)」や「貢献」を通じて、仕事に意味ややりがいを見出そうとします。
Z世代が求める承認・貢献の具体的な特徴としては、以下のような点が挙げられます。
- 即時性と頻度: 四半期や半期に一度の評価だけでなく、日々の業務の中での小さな成果や努力に対するタイムリーな承認。
- 多角的な承認者: 上司だけでなく、同僚、部下、他部署のメンバーなど、様々な立場からの承認。
- プロセスへの注目: 結果だけでなく、そこに至るまでの試行錯誤や努力、チームへの貢献といったプロセスへの評価・承認。
- 貢献対象の多様性: 会社業績だけでなく、チーム、同僚、顧客、社会といった広範な対象への貢献実感。
- 仕事の意味・社会との繋がり: 自分の仕事が社会や他者にどのように役立っているかを知ることによる貢献実感。
Z世代の承認・貢献意欲が職場に与える影響
これらの特徴を理解せず、従来の画一的な評価・承認システムのみで対応しようとすると、以下のような影響が懸念されます。
- エンゲージメントの低下: 自身の努力や貢献が正当に評価されていないと感じたZ世代は、仕事へのモチベーションや組織へのエンゲージメントを失いやすくなります。
- 離職率の増加: 自身の価値観や期待する承認・貢献の形と職場のそれが合わない場合、より自身を満たせる環境を求めて離職を選ぶ可能性が高まります。
- コミュニケーションの齟齬: 上司や既存世代が意図する「評価」や「承認」が、Z世代にとっては響かない、あるいは理解されないといったコミュニケーションのギャップが生じます。
- 新しいアイデアの喪失: 貢献したいという意欲があっても、それを形にする機会や、アイデアを出した際に承認される仕組みがない場合、積極的に提案を行う意欲が失われてしまいます。
企業として、Z世代の持つ高い潜在能力や多様な視点を活かすためには、彼らが求める承認・貢献の形を理解し、それに応じた環境や制度を整備することが不可欠です。
人事が取り組むべき具体的な対応策
Z世代の承認・貢献意欲を活かし、組織エンゲージメントを高めるためには、以下のような人事施策が有効と考えられます。
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多角的な承認システムの導入:
- ピアボーナス/サンクスカード制度: 同僚間で日頃の感謝や貢献を送り合う仕組みです。デジタルツールや物理的なカードを活用することで、即時的かつ多角的な承認を促進できます。
- 導入ポイント: 報酬に結びつけるか、感謝の気持ちを伝えるツールに留めるか検討が必要です。少額でも報酬に結びつけることで、貢献への意識付けを強化できます。
- 期待される効果: チーム内の相互承認文化の醸成、日頃の貢献の可視化、エンゲージメント向上。
- 社内表彰制度の見直し: 年間最優秀社員だけでなく、プロジェクト単位での貢献、チームワーク、新しい挑戦など、多様な「貢献」の形を称賛するカテゴリーを設けます。
- カジュアルな承認の推奨: ミーティングでのポジティブなフィードバック、社内SNSでの称賛投稿など、形式張らない日々の承認をマネージャーやメンバーに推奨します。
- ピアボーナス/サンクスカード制度: 同僚間で日頃の感謝や貢献を送り合う仕組みです。デジタルツールや物理的なカードを活用することで、即時的かつ多角的な承認を促進できます。
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貢献実感を生む機会の提供:
- 社内公募・兼業/副業制度: 自身の専門外のプロジェクトに参画したり、他の部署の業務を兼務したりする機会を提供することで、多様なスキルを活かし、異なる側面から組織に貢献できる実感を得られます。
- 社会貢献活動との連携: 企業のCSR活動やプロボノ活動への参加を推奨・支援します。自身のスキルや時間を社会貢献に活かせる機会は、特に社会課題への意識が高いZ世代にとって大きなモチベーションとなります。
- 仕事の「意味」の可視化: 定期的に顧客事例や社会への影響について共有する機会を設けます。自分の業務が最終的にどのような価値に繋がっているのかを理解することで、貢献実感を高めます。
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マネージャー向け研修と意識改革:
- Z世代が求める承認・貢献の形を理解し、一方的な評価ではなく対話を通じた目標設定やフィードバックを行うスキルを習得する研修を実施します。
- 部下一人ひとりのパーパスやキャリア志向を把握し、それに応じた貢献機会を提示するコーチング能力の向上を支援します。
- 結果だけでなく、プロセスや挑戦そのものを承認する重要性を伝えます。
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心理的安全性の確保とオープンな対話:
- 気軽に意見を述べたり、新しいアイデアを提案したりできる心理的に安全な環境を構築します。
- 定期的な1on1ミーティングを通じて、部下の業務状況、キャリアの悩み、貢献したいことなどを丁寧にヒアリングします。
- 失敗を非難せず、そこから学びを得る機会として捉える文化を醸成します。
具体的な事例と効果測定
(架空事例) 例えば、従業員数300名のITサービス企業A社では、Z世代の早期離職率が課題となっていました。人事部は、Z世代を対象としたアンケート調査を実施し、自身の仕事への「貢献実感の欠如」や「日々の努力に対する承認不足」がモチベーション低下の原因となっていることを把握しました。これを受け、A社は以下の施策を導入しました。
- デジタルピアボーナスツールの導入: スマートフォンアプリで、同僚同士が感謝のメッセージと少額のポイントを送り合えるようにしました。送られたメッセージは社内掲示板で共有され、全従業員が閲覧できます。
- 「今月のベストチャレンジ賞」の新設: 成果が出なかったとしても、新しい技術への挑戦や困難な課題への取り組みなど、プロセスにおける「挑戦」を称賛する社内表彰制度を設けました。
- クロスファンクショナル・プロジェクトへの公募枠拡大: 部署横断型のプロジェクトへの参加機会を増やし、自身の専門領域外での貢献機会を提供しました。
これらの施策導入から1年後、Z世代のエンゲージメントスコアは15%向上し、早期離職率は5%減少しました。従業員アンケートでは、「日頃の頑張りを見てもらえる機会が増えた」「自分の仕事が他の部署やチームにどう貢献しているかが見えやすくなった」といったポジティブな声が多く寄せられています。
効果測定においては、エンゲージメントサーベイ、離職率、従業員満足度調査、ピアボーナスの利用状況などをKPIとして設定し、定期的に効果を検証することが重要です。
結論
Z世代が職場に求める「承認」と「貢献」は、従来の価値観とは異なる多様な側面を持っています。彼らのこれらの欲求を深く理解し、人事制度、組織文化、マネジメントのあり方を柔軟に変化させていくことは、単にZ世代に対応するだけでなく、多様な人材が生き生きと働き、最大限のパフォーマンスを発揮できるインクルーシブな職場環境を構築するために不可欠です。
人事部門は、ピアボーナスや多様な貢献機会の提供といった具体的な制度設計に加え、マネージャー層の意識改革とスキルアップを支援することで、組織全体のエンゲージメント向上と持続的な成長を推進していくことが求められています。Z世代の承認・貢献意欲を活かす取り組みは、企業全体の活力と競争力強化に繋がる重要な投資となるでしょう。